皆川 明・田中景子トークイベント

2025.12.14 article

去る2025年12月14日、〈ミナ ペルホネン〉のデザイナー、皆川 明と田中景子によるトークイベントが開催されました。クリス智子さんの軽やかな司会で、展覧会の見どころ紹介から人生相談まで大盛り上がり。世田谷美術館の講堂に集まってくださったたくさんのお客さまと共に、「ミナ ペルホネンのものづくり」を考えた1時間30分、その一部をお届けします。

プロフィール

皆川 明_1995年に〈ミナ ペルホネン〉の前身である〈ミナ〉を設立。ハンドドローイングなどの手仕事によってテキスタルデザインを行い、洋服、バッグ、家具、うつわから空間ディレクションまで、日常に寄り添うデザイン活動を続けている。

田中景子_2002年にテキスタルデザイナーとして〈ミナ ペルホネン〉に入社。手作業によって、大胆な構図と繊細な表現を併せもつ図案を作り出す。2021年に皆川から代表を引き継ぐ。デザイン活動を通じて、社会への貢献と個人の喜びを増やすことを目指している。

クリス智子_大学卒業時にJ-WAVEでラジオパーソナリティデビュー。現在はゲストとのフリートーク番組であるJ-WAVE「TALK TO NEIGHBORS」をナビゲート中。MCやナレーション、エッセイ執筆、朗読、音楽、作詞なども行う。

ものづくりのプロセスをお見せする展覧会です (田中景子)

クリス智子:まずは、今回の展覧会のタイトルを「つぐ」にした背景を教えてください。

田中景子:「つぐ」は、受け手の存在が大きい言葉だと思うんです。2019年から2022年まで巡回した「つづく」展は、私たちが作ったもの・作っていくものを見ていただく展示でした。一方「つぐ」展は、見てくださった方々が、ご自身の「つぐ」って何だろうと考えるきっかけになるといいなと、そんなふうに考えた展示です。

クリス:会場をゆっくり拝見して感じたのは、洋服のブランドの展示というより、ものづくりの展覧会なのかなということでした。もちろんお洋服もたくさんありますけど、アトリエや工場の様子も再現されていて。こういうスタイルは、どんな発想から始まったのですか?

田中:私たちの頭の中にあるアイデアが、洋服という形になるまでのプロセスをお見せすることで、ミナ ペルホネンが伝えたいことがどのように具現化されていくのか、みたいなことを見ていただきたかったんです。

クリス:そのプロセスの見せ方がとっても面白いですよね。最初の「コーラス」のパートでは、扇形の素敵な空間に、いろんなテキスタイルがわーっと並んでいて……。

皆川 明:私たちが作ってきたテキスタイルの図案は1000種類以上あるんですけど、ひとつひとつが独立しているというより、枝葉のようにつながっているんですね。あるモチーフが次のデザインのアイデアになったり、シーズンを超えて新しい図案が派生したりして、長く続いていく。そのプロセスをコーラスのイメージで展示しました。ひとつひとつの音が呼応しながら全体の響きを作っていくような感じです。

田中:昨日の私が今日の私を作るように、柄やモチーフが作られている。そんなことを感じてもらえたらうれしいですね。

クリス:たとえば、初期から続く人気モチーフの〈タンバリン〉も、最初にデザインを考えた時から、こんなふうに形を変えて続いていくことが頭の中にあったんですか?

皆川:それはなかったんです。今もそうですが、あとで振り返った時に、「あの時に考えていたことや出会った技術が、結果的に別のデザインにつながったんだな」って感じることがほとんどです。

クリス:技術というのは、皆川さんや田中さんがデザインするというだけじゃなくて、いっしょにものづくりをしている工場の技術から何かが生まれる、ということでしょうか。

皆川:まさしくそうですね。この工場にはこんな職人さんがいて、こんなスキルがあるから、それを僕らのアイデアと掛け合わせたらこんな広がりが生まれるだろう、みたいな想像をしながらデザインをしています。

工場とデザインはつながっているんです (皆川 明)

田中:今回の展覧会では、展示パートごとに「コーラス」「スコア」「アンサンブル」といった、音楽にまつわるタイトルを付けました。「アンサンブル」のパートでは、私たちがお世話になっている工場の様子を紹介しています。

クリス:プリント工場を再現したコーナーで驚いたのですが、生地にプリントをする時ってあんなに大きな〝版〟を使うんですね。なかなか見ることのできない光景でした。

田中:展示している作業台は7、8メートルですが、実際は25メートルあります。大きいんですよ、学校のプールぐらいの大きさです。

皆川:機械や道具の実際の大きさや、働いている人の映像を見ていただくことが、今回は大切だと感じたんです。というのも、今は「人がものを作っている」ことが、なかなか見えづらい時代。でも、洋服は人が作っているのです。「自分たちが身に付けている服には、いろんな人が関わっている」ということが、伝わるといいなと思いました。

クリス:その想いは、1995年にミナを始めた頃からあるものですか?

皆川:そうですね。僕は洋服作りを学校よりも、工場の現場で教わったのですが、当時、海外の資本がどんどん参入して、日本の工場が継続しづらい環境になっていることを感じていたのです。なので、自分たちがデザインをすることが、着る人のよろこびと、ものづくりの現場が元気になることの、両方につながるのであればやる意味がある。そんなことを考えて〈ミナ〉を始めました。自分たちのデザインを通して生まれた新しい技術も、できるだけオープンにしています。それが工場のスキルとして蓄積されれば、他社に対して「ウチの工場はこんなことができますよ」っていう強みになりますから。

クリス:……皆川さんっていい人ですね(笑)。

皆川:(笑)。というより、自分たちにも返ってくることなんです。工場がなくなってしまったら、どんなに良いアイデアが浮かんでも具現化できなくなる。このままだと本当に、大量生産型の作り方しかできなくなってしまう。だから、他者のためでもあるんですけど、自分たちのためでもあるんです。

クリス:ものづくりを続けるためには、環境自体を充実させていくことが大事なんですね。

皆川:工場みたいな環境って、一度失われると元には戻りません。またゼロからやりましょうというのが難しいんです。国内の工場が減ってしまっている状況を、自分たちなりに引き受けて変えていくためには、僕たちのようなブランドと作ってくれる工場とのコミュニケーションを、もっと丁寧にすることが大切です。今回の「つぐ」というテーマは、いわばリレーで、リレーをする時って共同体的な意識が必要じゃないですか。「自分たちはこういう服を作りたいので力を貸してください」とか「今回お願いしている仕事は、職人さんたちにとってやりがいになっていますか」というような、互いが続いていくためにケアし合える関係性を築きたいなと、そんなことを考えるんですよね。

クリス:「つぐ」っていうことで言うと、会場には親子でいらしてる方も多くて、お子さんが工場の映像や道具を熱心に見ている姿が、すごく印象的だったんです。大人が生き生きと仕事をしている姿を見ることは、子どもにとって大事なことなんだなと思いました。

皆川:働いている様子を見て、「職業」とか「何々をする人」ということ以上に、その人たちが目の前のことに情熱を傾けているんだということを感じてもらえたらうれしいですね。どうしたら自分の好きなことに全力を注げるんだろう、この職人さんはどうしてこの仕事をしようと思ったんだろう、みたいなことを、いつか自分が大人になって仕事を選ぶ時に、ふと思い出してもらえたらって思います。

質問コーナー パート1:アイデアはどこから生まれますか?

クリス:さて、ここからは応募者のみなさんから皆川さんと田中さんへの質問コーナーです。最初の質問を読みますね。「テキスタイルのアイデアやインスピレーションはどんな時に浮かぶのでしょう?」。

田中:私の場合は「今、デザインを考えよう」という感じではなくて、音楽を聴いたり映画を観たり友達と話をしたり、そういう、ふとした瞬間に生まれることが多いです。

クリス:田中さんは今回、テキスタイルが生まれる過程を紹介する「スコア」のパートで、切り絵の端材を組み合わせて新たな景色を作る…というようなプロセスを展示していますよね。あの流れを見て、身体的な感覚でものを作られているのかな、と思いました。

田中:確かに、そうかもしれません。ひとつの柄を作っている時、その切れ端が散らばっている様子もきれいだな、みたいに感じることはよくあります。偶然に生まれたものに対して、記憶にとどめておきたい、身体の感覚に変えてみたいと思った時に絵が浮かぶ感じです。

皆川:僕は、好きな釣り掘に行って釣り糸を垂れている間にひらめくような……釣りはしないんですけど(笑)。つまり、待っている間にいろんなことを考えて、それがいろんなふうにつながってデザインという景色に変わるっていう感覚だと思います。だから、いつ浮かぶのかは自分でも分かっていないのですが、今生きている環境や、世界で起こっていることから生まれるマインドのようなものを、自分なりに咀嚼してデザインに昇華しているのかなとは思います。

田中:そうやってアイデアが浮かんだ時は、まず工場の職人さんの顔やお客さまの顔を想像しますよね。このお仕事でまたご一緒できるな、こういう服を作ったらあの方が着てくださるかな、って。

クリス:今回はお二人がふだん仕事をしている机まわりを再現したコーナーもあって、とても面白いんですよね。景子さんの机はモノがキチッキチッと並んでいるのですが……。

田中:皆川さんのエリアは鳥の巣みたい(笑)。

皆川:いろいろな方からいただいた大事なものを机のまわりに集めて、ペタペタ貼っちゃうんですよ。

クリス:そういうお二人の違いもじっくり見ていただけます。では2つめの質問です。「ミナの服はポケットが大きく作られていて、小さなことかもしれないけれど温かく感じています。こだわりなどはありますか?」

皆川:ポケットを褒めていただいてうれしいです。サンプルをフィッティングモデルに着せてチェックする時は、必ずポケットに手を入れてもらって、その立ち姿を確認します。脇についているのか前についているのかで、手を入れた時の姿が変わる、そういうことを結構大事にしているんです。

田中:ドレープが美しいドレスには、ささやかに手を入れるポケットがいいし、カジュアルなコートの場合はちょっと高めの位置に手を入れる仕草がかわいいよねって、そんな感じで考えています。

皆川:ポケットはものを入れるだけでなく、仕草を作るための大事な決め手でもあるんです。

クリス:ポケットは仕草を作るもの…! 私たちはミナの服を着る時に、そういうところで幸せにしてもらっているんですね。ちなみに、お二人のポケットには何が入っていますか?

皆川:今は携帯電話ぐらいだけれど、小さいころは何が入っていたかな……たぶんゴミですね(笑)。

クリス:ええっ!?

田中:皆川さんは「ポケットには夢や希望が…」みたいなことを言うのかなと期待していたのに、ゴミって(笑)。

皆川:僕は結構ものを拾う人なんです。今も砂浜などに行くと、石でパンツがずり落ちるんじゃないかっていうくらい拾ってポケットに詰め込みます。

田中:私は、ポケットは手を入れるものだと思っていますね。昔のことですが、すごく悔しい想いをした時は、自分で作った小さなぬいぐるみを入れてギュッと握りしめていました。

クリス:ポケットには物語があるんですね。では次の質問です。「デザインをする際に大切にしていることは何ですか?」

皆川:お客様と服が出会った時に感動があってほしいと思いますし、できるだけ長い時間、その関係性が続いてほしいと思います。出会った瞬間と続いていく時間の両方が、その人の大事なものであり続ける服を作りたいと思っています。ファーストインプレッションは強くても、時間が経つにつれてその人の暮らしの中での存在が薄くなってしまう……ということがないだろうか、大事に着ようと思ってもらえる服になっているだろうか。デザインする時にはいつもそう自問自答します。

質問コーナー パート2:目の前に立ちはだかる壁と、どう向き合いますか?

クリス:ここからはちょっと人生相談ふうの質問です。今後のキャリアを模索しているという、現在34歳の方からです。「憧れていたものがあったけれど、自分には向いていなかったことを受け入れ、諦める。そういうことを迫られている感覚を抱いています。お二人に、そういう経験はありますか?」

皆川:「憧れ」ということは高い目標をお持ちなんですよね。ということは、そこへ行くまでにたくさんの段階がある。「憧れ」が100%だとして、その10%とか1%の場所に、自分のやりがいはないのかなって探すことはできると思うんです。憧れが諦めにつながってしまっているのなら、憧れを一回外してみると、純粋にやりたいことが残るんじゃないでしょうか。「憧れの場所に立てないかもしれない私」はいったん忘れて、やりたいことだけ始めてみる。そうすると意外と歩き始められる気がします。

田中:辛いことを迫られる、何かを諦めなくちゃいけない、というような悩みは常に降ってくるし、私もまだ悩むことがあります。でも、何かを諦めてどこかへ置いてくれば、新たな可能性が私の中に降って来るんだろうな、とも思っています。

皆川:僕はミナを立ち上げた時、「せめて100年つづくブランドに」ということを言いました。自分が頭の中に描いていることを、自分の人生の中で実現するのは無理だろう、だけれど、100年のあいだに、誰かが引き継いでいってくれたら、頭の中にあることも形になるかもしれない——そう思ったからです。たとえば工場が活性化して元気になるとか、デザインが大切に作られる環境が生まれるとか、それを自分が達成するのは難しい。つまり、ある種の諦めです。でも、そこへ向かう自分の人生には意味があると思うんですね。

クリス:「小学校2年生の時の夢を教えてください」という質問もありました。

田中:私はCAさんになりたかったです。身長が伸びず早々に諦めましたが(笑)。飛行機は多くの人の夢をのせて運ぶ夢のような機体だとずっと思っていて、今でも飛行機には憧れがあります。

皆川:田中さんは旅客機にものすごく詳しいんですよ。ちょっと珍しい機体だと「これは〇〇型で、ここが特徴で」なんて言って隅々まで見てる。

クリス:そうだったんですか。いつか飛行機のお仕事ができたら素敵ですね。

皆川:僕は宮大工です。子ども向けのお仕事図鑑に「釘をひとつも使わずに建物を造る」と書いてあるのを知って、そういう人になりたいと憧れました。「釘を使わない大工」ってすごいコピーじゃないですか。神社に行くといまだにじっくり見てしまいます。外から見ただけでは計り知れない複雑な構造や木の組み方があって、人間の知恵に圧倒されるのです。大人になって振り返ってみると、「憧れ」とか「子どもの時にあんなことを思ったな」ということが、姿を変えてどこかでつながっているんでしょうね。

クリス:では最後の質問です。「制作活動において、壁にぶつかった時はどうしたらいいですか?」

田中:私は常にあがいたり焦ったりしているのですが、なんとか向き合ってやり続けて、ある瞬間に振り返ったら壁をクリアしていた……ということの繰り返しです。苦しいことも多いですが、その苦しさも励みにして壁を登ればいいのかなと思っています。皆川さんにはあんまり壁がないですね、きっと。

皆川:僕は「壁でもあり、道でもある」という言葉を書き残したことがあります。壁って行き止まりじゃなくて、それも道のひとつかなって思う。

クリス:壁も道のひとつ!? 初めて聞きました。でもいいですね、皆川さんの言葉で日めくりカレンダーが作れそう(笑)。

田中:面白いですね! ほしい方、どのくらいいるかな(笑)。

作る環境とデザインの関係を豊かにしたい (皆川 明)

クリス:これからの〈ミナ ペルホネン〉についても伺いたいのですが、2021年に皆川さんから田中さんへ、会社の代表が引き継がれました。これもひとつの「つぐ」ですね。

皆川:僕の場合は、完全にバトンタッチして居なくなるのではなく、代表を継いだ後も、引き続きチームの中に入って一緒に走っていくという感じです。ツール・ド・フランスのような自転車レースって、チームの先頭走者が入れ替わると、元の先頭の人は少し下がって後ろからついていくじゃないですか。ああいうイメージです。田中さんが風を切って走っていく姿を、後ろで眺めながら付いていく、みたいな。

田中:私がちゃんと風除けになりますよ(笑)。2002年に会社に入ったころは、仕事は人の背中を見て覚えるという感覚でしたが、今はコミュニケーションで会社を作っていく時代だと感じています。社内のスタッフとも工場の方々とも、もっとコミュニケーションが取れるような環境を作りたいです。

クリス:人と人がコミュニケーションをとるからこそ、違和感があったり、ちょっと違うっていう意見が出てきたり、逆にそこで初めて自分の考えがあるっていう感覚が生まれたりもしますよね。

田中:そうなんです。それから、私たちがデザインをする時は「みなさんに喜んでもらえるかな」と想像することがとても大事なので、2026年は、直接お客さまに会える場所を大切にしたい。コンピューターや画面上では分からない、人の温度を感じられる場を作っていきたいです。

皆川:僕の目標は、作る環境とデザインの関係を豊かにすること。2026年は、デザインしながら同時に環境を作るということに、真剣にフォーカスしていこうと思っています。やっぱり、人が働くとか人がものを作るという営みが、とても大事なことだと思うんです。テクノロジーやAI技術の発展によって人間が要らなくなるのではなくて、人のアナログな良さを引き出すために、テクノロジーが使われるような社会になるといい。たとえば未知のものを作ろうとした時に、AIが「アフリカの織り職人と日本の宮大工の技術を合わせれば問題が解決しますよ」とリサーチしてくれるような、アナログテクノロジーの時代が来るんじゃないかな、という気がしています。

クリス:最後に、展覧会を観た方やこれから観る方たちにメッセージをお願いします。

田中:たくさんの伝えたいことを展示に込めました。それを少しでも受け取っていただけたらうれしいですし、展示からみなさんが思ったことや感じたことを誰かに伝えていただくことで、私たちの考えていることが広がっていくといいな、と想像しています。

皆川:私たちが作っているのは、洋服という、みなさんにとっていちばん身近な空間になるものです。わずか一着分の小さな空間にも、本当にたくさんの人が関わっているんですよね。この糸は遠くニュージーランドから来てるんだとか、この生地は京都で染色されたとか、ひとつひとつひもといていくと世界がぐんぐん広がっていくはずですし、そういった豊かなつながりも、きっと感じてもらえると思います。



文:輪湖雅江
撮影:松元 絵里子

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